過労死シンポジウムに参加(2)

(承前)そして休憩に入りましたが、休憩中、同朋高校放送部制作の映像ドキュメンタリー「過労自殺」が上映されました。過労死遺族・医師の話や、過労死と過労自殺の違いに関してのアンケートや、高校生自身が、親の労働の過酷さに関係して、学校生活に支障が出たり、自身もバイトをしなくてはならなかったり、一家全体が家を失ったり、就職難になっていたり、というような状況に陥っているということも関連させられていたりして、若者が厳しい現実に立ち向かっている姿が印象的でした。

 

 再開後、高橋さんの代理人も務めた川人博弁護士(過労死弁護団全国連絡会議代表幹事)が、30年以上過労死問題に取り組んできた経験にもふまえての、「過労死・ハラスメントをなくすために」と題した基調講演を行いました。

 

 まず「第1 過労死の歴史」として、明治以来過労死は発生していたとしつつ、戦後8時間労働が原則となったが、経済成長の時には無給残業による非合法な超時間労働と労使協定による合法化した長時間労働とが日本的経営システムに組み込まれ、不況になったら精神疾患・自殺が激増し、右肩上がりになっている、とし、しかし労災認定数は過労死の氷山の一角で、警察統計で「勤務問題」による自殺は一日に約5人、愛知県で一週間に2~3人、という状況だ、としました。

 

 次に「第2 過労死の事例」として、まず「コロナ禍と過労死」として、地方公務員やエッセンシャルワーカー(たとえば消毒会社)の例や、業務上で感染した医療従事者の例も挙げました。次に「ジェンダーと過労死」として、ひどいストレスで、視野狭窄に陥り、自殺した女性の例などを紹介したうえで、21世紀に入って女性の長時間労働が増加していて、背景として直前に労基法の女性保護規定が削除されたことを挙げました。そして女性の場合、「女子力」などとセクハラとの二重の被害を受けている、としました。さらに、時間外労働の上限規制の適用が猶予されている建設業・運送業・医師の例を挙げましたが、特に医師について、研修医の長時間労働の問題に関連して、ドイツでは医学部学生時代からユニオンに加入できると紹介されたのが印象的でした。そして、「公共性の高い仕事は、働きすぎでもやむを得ないのか?」と問題提起し、こうした考えを過度に強調するのはおかしい、公共従事者のゆとりと健康なくして健全な公共サービスはできない、としました。

 

 次に、「会場には企業関係者の方も多いとのことで」と言いつつ、「第3 足元からのCSR(企業の社会的責任)の実践で企業の健全な発展を」として、まず「過労死と業務不正の併存」を指摘しました。電通で、まつりさんの担当していた仕事に関係して、ネット広告について、広告を出していないのに金をとっていたというひどい不正が行われていて、副社長が「人手不足」と弁明した、という例を示して、粉飾労働記録が遵法精神を麻痺させていたのでは、としました。次に「適正な業務量と人員配置のための留意点」として、過労死が、特に種々の困難さのある部門に発生している、こういうことはどの会社でもあり得る、日常的にある種のゆとり・余裕がなければならない、それはコロナの教訓でもある、とし、「お客様は神様か?」と問いつつ、無理な要求を拒絶することも「働き方改革」=業界慣行の改善だ、としました。次に「ハラスメントをなくすために」として、ハラスメントをなくすキーポイントは中間管理職の疲弊をいかに解消するかだ、とし、「抑圧の移譲」(丸山真男)という理論も引きつつ、抑圧・いじめ社会の構図を提起し、「良きパートナーシップを広げること」として、ハラスメント規制というネガティブリストだけでなく、良きリーダーシップを、として、ラグビーの平尾さんの発言を引き、また、横の人間関係づくりを進め、その例として労働組合も挙げました。そして「企業トップの役割」として、企業トップが過労死に関心を持ち、直接遺族に謝罪したりし始めていることを紹介しました。

 

 最後に「第4 過労死ゼロのために」として、「勤務時間インターバル規制を全職場に」と訴え、また「オフの時間を確保するために」として、メール・ネット・スマホ時代での仕事のオフの確保についての検討を訴え、最後に「国際的な取り組みのひろがり」として、SDGsで「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」推進も挙げられたり、「ビジネスと人権」に関する指導原則が国連で決議されたり、過労死に至る過重労働の基準を週55時間以上と設定したり(WHO・ILO)していることを参考にしていこうとし、「まとめ」として、「健康な職場づくりを通じて明るく生き生きとした社会の実現を」と訴えて、講演を締めくくりました。

 

 一時間ほどの講演でしたが、興味深く、「なくすために」どうするか、考えさせられました。

 

 最後に、岩井羊一弁護士(過労死弁護団全国連絡会議幹事)が、全体を簡潔にまとめた閉会挨拶を行い、閉会となりました。

 

 不況の中での、長時間労働とハラスメントを原因とする過労死と、反面での貧困とが同時に急増している現状を、構造的にとらえ、変えていこうと思わされるシンポジウムでした。『朝日』・『中日』・NHKも取材に来ており、報道もされました。社会的にも関心を高めつつ、今後もがんばっていきましょう。 

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